転職活動において業界選びは、将来のキャリアを左右する重要な決断です。2025年現在、技術革新や社会構造の変化により、急成長する業界がある一方で、従来のビジネスモデルが通用しなくなった業界も存在します。
本記事では、客観的なデータと市場動向に基づいて、これから伸びる業界と衰退が懸念される業界を詳しく分析し、戦略的な業界選びのポイントを解説します。
これから伸びる業界7選とその理由
2025年以降も持続的な成長が期待される業界には、共通して社会課題の解決やデジタル変革への対応といった特徴があります。これらの業界は、技術革新と社会ニーズの変化を背景に、中長期的な成長基盤を築いています。
以下に、成長が期待される主要業界の特徴と成長理由をまとめました。
| 業界名 | 主な成長要因 |
|---|---|
| IT・デジタル関連 | DX需要、AI技術発展 |
| ヘルスケア・医療 | 高齢化、デジタルヘルス |
| 再生可能エネルギー | 脱炭素政策、技術向上 |
| eコマース・物流 | オンライン消費拡大 |
| エンターテインメント・コンテンツ | デジタル配信、海外展開 |
| 人材サービス・教育 | リスキリング需要 |
| フードテック・農業DX | 食料安全保障、技術革新 |
IT・デジタル関連業界
IT・デジタル関連業界は、あらゆる産業のデジタル変革を支える基盤として、今後も継続的な成長が見込まれます。特にAI技術の発展とSaaS（Software as a Service）市場の拡大により、新たなビジネス機会が次々と創出されているのです。
政府の「デジタル田園都市国家構想」をはじめとする政策支援や、企業のDX投資拡大により、今後もIT市場規模は増加すると予測されています。AI開発エンジニア、データサイエンティスト、サイバーセキュリティ専門家などの職種では、慢性的な人材不足が続いており、高い給与水準と安定した雇用が期待できるでしょう。
また、クラウドコンピューティングの普及により、従来の大規模なシステム開発から、アジャイルな開発手法や個別のITサービス構築への需要が高まっています。このため、新しい技術スタックに対応できる人材への需要は今後も拡大していくでしょう。
ヘルスケア・医療業界
日本の高齢化率が29.1%に達する中（参照：内閣府HP「1 高齢化の現状と将来像｜令和6年版高齢社会白書（全体版） – 内閣府」）、ヘルスケア・医療業界は社会インフラとしての重要性がますます高まっています。
医療分野の市場規模は今後も成長が予想されており、特に医療IT、バイオテクノロジー、介護の分野では人材需要が急増しています。医療従事者だけでなく、医療機器開発、ヘルスケアデータ分析、介護系サービス運営など、多様な専門職での雇用機会が拡大しています。
再生可能エネルギー業界
2050年カーボンニュートラル実現に向けた政府方針（参照：環境省HP「2050年カーボンニュートラルの実現に向けて | 地球環境・国際環境協力 | 環境省」）により、再生可能エネルギー業界は国策として強力な支援を受けている成長分野です。太陽光発電の発電効率向上と設置コスト低下により、従来の火力発電に対する競争力が大幅に向上しているのです。
また、洋上風力発電プロジェクトの本格化や、蓄電技術の発展により、再生可能エネルギーの安定供給体制が整いつつあります。エンジニア、プロジェクトマネージャー、保守管理技術者などの専門職種だけでなく営業職も含め高い需要が期待されています。
また、企業のESG経営への取り組み強化により、再生可能エネルギー導入コンサルティングや、環境価値取引に関する専門人材の需要も急増しています。
eコマース・物流業界
新型コロナウイルス感染症の影響により加速したオンライン消費の定着により、eコマース・物流業界は構造的な成長軌道に入っています。2024年の国内EC市場規模は22.7兆円に達し（参照：経済産業省HP「電子商取引に関する市場調査の結果を取りまとめました （METI/経済産業省）」）、今後も成長が予測されています。
業界として伸びているにも関わらず、運転手や倉庫勤務の人間が足りていない状況が続いており、転職しやすい分野と言えるでしょう。また、ドローンや配送ロボット、物流関連システムも盛んに開発されており、今後技術革新が起きやすい業界なのも特徴です。
エンターテインメント・コンテンツ業界
デジタルコンテンツ市場の急成長により、エンターテインメント・コンテンツ業界は従来の枠組みを超えた新しいビジネスモデルを構築しているのが特徴です。動画配信サービスの世界的な普及もあり、日本のアニメ、ゲーム、音楽コンテンツの海外展開が加速しています。
ゲーム業界も、モバイルゲームとeスポーツ市場の拡大により、今後も安定的に伸びていくと予測されています。また、メタバース技術の発展により、バーチャル空間での新しいエンターテインメント体験が創出されており、VR/AR技術者、3Dデザイナー、コンテンツクリエイターなどの職種で高い需要があるのです。
さらに、AI技術を活用したコンテンツ制作支援ツールの発展により、個人クリエイターでも高品質なコンテンツ制作が可能になり、新しい働き方や収益モデルが生まれています。この分野では、技術的なスキルと創造性を併せ持つ人材が特に求められています。
人材サービス・教育業界
労働市場の流動化とリスキリング需要の高まりにより、人材サービス・教育業界は新たな成長局面を迎えています。特に、AI技術の発展により従来の職種が変化する中で、継続的な学習とスキルアップの重要性が増しています。
企業の人材戦略が「大量採用」から「育成・定着」へとシフトする中で、タレントマネジメント、組織開発、エンゲージメント向上などの分野で専門的なサービスの需要が向上しているのです。また、副業・フリーランスの増加により、多様な働き方に対応した人材マッチングサービスの需要も拡大しています。
教育分野では、オンライン学習、パーソナライズド学習、マイクロラーニングなどの新しい教育手法が普及しています。これらの技術を活用した教育コンテンツの開発や、学習効果の測定・分析に関する人材の需要が急増しているのです。
フードテック・農業DX業界
食料安全保障への関心の高まりと持続可能な農業技術の発展により、フードテック・農業DX業界は新興成長分野として注目されています。植物工場、システムを活用した農業、代替タンパク質開発などの技術革新により、従来の農業の概念が大きく変わりつつあると言えるでしょう。
また、食品ロス削減や環境負荷軽減への社会的な声の高まりにより、フードサプライチェーンの最適化や、昆虫食・培養肉などの代替食品開発が活発化しています。この分野では、農業技術、バイオテクノロジー、データサイエンスなどに精通した人材の需要が増しているのです。
衰退が懸念される業界5選とその理由
一方で、技術革新や消費者行動の変化により、従来のビジネスモデルが通用しなくなった業界も存在します。これらの業界では、デジタル変革への対応遅れや、新しい競合他社の参入により、市場シェアの縮小が続いています。
以下に、衰退が懸念される業界と課題をまとめたものです。
| 業界名 | 主な衰退要因 |
|---|---|
| 従来型金融業界 | フィンテック普及 |
| 紙媒体・出版業界 | デジタル化進展 |
| 従来型小売業界 | EC普及 |
| 旧来型製造業 | 自動化進展 |
| 交通・運輸業界（一部） | 自動運転、リモートワーク |
従来型金融業界（銀行・証券）
従来型金融業界は、フィンテック企業の台頭により、既存のビジネスモデルに大きな変革を迫られています。デジタル決済サービスの普及により、現金決済や店舗での取引需要が減少し、従来の金融機関の収益基盤が侵食されているのです。
特に地方銀行では、人口減少と低金利環境の長期化により、従来の貸出業務だけでは収益確保が困難になっています。また、オンライン証券の普及により、対面営業による金融商品販売の需要も減少しているのも深刻な問題です。
紙媒体・出版業界
新聞・雑誌・書籍などの紙媒体市場は、デジタルメディアへの移行により継続的な縮小が続いています。特に新聞業界では、読者の高齢化と若年層の活字離れにより、購読者数の減少が深刻な問題となっています。
電子書籍市場の拡大により、出版業界全体のデジタル化が加速していますが、従来の編集・制作・流通プロセスからデジタルへの転換には時間を要している企業が多いのが現状です。また、広告収入の減少により、従来の収益モデルの見直しが必要になっています。
従来型小売業界（百貨店・専門店）
従来型小売業界は、eコマースの普及により、実店舗での売上減少が続いています。特に百貨店業界では、コロナ禍による外出自粛の影響が長期化し、構造的な需要減少に直面しています。
消費者の購買行動がオンライン中心にシフトする中で、実店舗の役割も「販売」から「体験提供」や「ブランド体験」への転換が求められています。しかし、従来の店舗運営ノウハウだけでは、新しい顧客体験の創出は困難な状況です。
旧来型製造業
製造業では、自動化技術とロボット技術の発展により、従来の労働集約的な生産体制からの転換が求められており、特に単純作業や定型業務については、人間の労働力がロボットに置き換わる傾向が顕著になっています。
そして、上記の流れに乗れない旧来型の製造関連企業の規模は縮小せざるを得ない状況となっているのです。
また、グローバル競争の激化により、コスト競争力の向上が急務となっており、海外生産拠点への移転や、生産効率の改善が継続的に求められています。これにより、国内製造拠点での雇用機会は減少傾向にあります。
交通・運輸業界（一部）
交通・運輸業界の一部では、自動運転技術の発展とリモートワークの定着により、従来の移動需要パターンに変化が生じています。特にタクシー業界では、配車アプリの普及により、従来の流し営業の効率性が低下しています。
公共交通機関についても、テレワークの普及により平日の通勤需要が減少し、収益基盤の見直しが必要になっています。また、自動運転バスの実証実験が各地で行われており、将来的にはドライバーの役割が変化する可能性があります。
一方で、物流業界では、eコマースの拡大により配送需要が急増しており、ラストワンマイル配送の効率化や、配送品質の向上が重要な課題となっています。物流技術、配送最適化、倉庫管理システムなどの専門分野では、継続的な人材需要が見込まれています。
業界衰退の共通要因3つのパターン
衰退する業界には共通する要因があり、これらのパターンを理解することで、将来的なリスクを予測することが可能です。以下では代表的なパターンを3つ紹介します。
テクノロジーによる代替
最も顕著な衰退要因は、新しい技術により既存のサービスや製品が代替されることです。現代では、AI、ロボット技術、デジタルプラットフォームの発展により、従来人間が行っていた業務の多くが自動化されています。
自動化されている例
- 金融業界における自動審査システム
- 小売業界のセルフレジ
- 製造業の産業ロボット
このパターンの特徴は、代替のスピードが予想以上に早く、既存の業界プレイヤーが対応する前に市場構造が変化してしまうことです。特に定型業務や単純作業については、コスト効率と品質の両面で技術的な解決策が優位性を持つため、人間の関与する余地が急速に縮小します。
ライフスタイル変化への対応遅れ
消費者のライフスタイルや価値観の変化に対応できない業界は、市場ニーズとのミスマッチにより衰退していきます。
代表的な社会変化
- デジタルネイティブ世代の台頭
- 環境意識の高まり
- ワークライフバランス重視
例えば、紙媒体の出版業界では、デジタル情報への移行と短時間での情報消費傾向に対応が遅れました。また、従来型の百貨店では、消費者の価値観が「所有」から「体験」へとシフトする中で、商品販売中心のビジネスモデルが時代遅れになっています。
グローバル競争激化
国境を超えた競争の激化により、従来の国内市場中心のビジネスモデルが通用しなくなった業界も多く存在します。デジタル技術の発展により、物理的な距離の制約が少なくなり、世界中の企業が同一市場で競争する状況が生まれています。
例えば、製造業では、新興国の技術力向上とコスト競争力により、先進国の製造拠点の優位性の低下が深刻です。また、サービス業においても、デジタルプラットフォームを通じて海外企業が容易に参入できるようになり、国内企業の市場シェアが侵食されています。
伸びる業界を見極める5つの判断基準
成長性の高い業界を選択するためには、客観的な判断基準に基づいた評価が必要です。感情的な判断や一時的なトレンドに惑わされることなく、中長期的な視点で業界の将来性を見極めることが重要です。
市場規模の成長率と将来予測
業界選びの最も基本的な判断基準は、市場規模の成長率と将来予測です。年平均成長率（CAGR）が5%以上の業界は、継続的な事業拡大と雇用創出が期待できます。政府統計、業界団体の調査レポート、シンクタンクの予測データなどを活用し、複数の情報源から客観的な成長予測を収集することが重要です。
年平均成長率とは：
定期間における年平均の成長率を示す指標で、投資や事業の成長性を測る際に使用されます。例えば、3年間で市場規模が100億円から133億円に成長した場合、CAGRは10%となり、毎年平均して10%ずつ成長していることを意味します。
市場規模の数値だけでなく、成長を支える根本的な要因（人口動態、技術革新、政策支援、社会課題など）を理解することで、成長の持続性を評価できます。これらの要因が複合的に作用している業界ほど、安定した成長が期待できるのです。
社会課題解決への貢献度
持続的な成長を遂げる業界は、社会課題の解決に貢献している共通点があります。少子高齢化、環境問題、地方創生、教育格差などの社会課題は、政府や企業による継続的な投資対象となるため、関連する業界には安定した需要が見込めるでしょう。
特にESG（環境・社会・ガバナンス）経営への関心の高まりにより、企業の社会的責任を果たす事業分野への投資が拡大しています。再生可能エネルギー、ヘルスケア、教育、地域活性化などの分野では、民間投資に加えて公的資金の投入も期待でき、事業の安定性が高まっているのです。
テクノロジー活用の可能性
AI技術の発展により、多くの職種が自動化のリスクに直面していますが、逆にテクノロジーを活用することで付加価値を創出できる業界は大きな成長機会があると言えるでしょう。
デザイン、コンサルティング、教育、エンターテインメントなどの分野では、AI技術を活用することで従来不可能だったサービスの提供や、効率性の向上が実現されています。
これらの業界では、技術を使いこなすスキルと専門知識を組み合わせることで、高い付加価値を創出できているのです。
重要なのは、技術で置き換わってしまう業界ではなく、技術を活用して人間の能力を拡張できる業界を選択することです。テクノロジーとの共存関係を築ける分野では、継続的なスキルアップと新しい働き方の実現が可能になります。
政府政策・規制動向との整合性
政府の成長戦略や政策方針と整合性の高い業界は、制度的な支援や規制緩和により成長が促進されます。「Society 5.0」「デジタル田園都市国家構想」「2050年カーボンニュートラル」などの国家戦略に関連する分野では、政府による政策支援が期待できます。
政策支援の例
- 補助金
- 税制優遇
- 規制緩和
また、新しい法制度の整備により市場が拡大する分野もあります。個人情報保護法の強化によりサイバーセキュリティ業界が成長し、働き方改革関連法により人材サービス業界が拡大するなど、規制動向が業界の成長を左右する場合があります。
グローバル市場での競争優位性
国内市場の縮小が予想される中で、グローバル市場での競争力を持つ業界を選択することが重要です。日本の技術力、文化的な強み、地理的な優位性を活かせる分野では、海外展開による成長機会が期待できるでしょう。
アニメ、ゲーム、ファッション、食品などの分野では、日本発のコンテンツや製品が世界的に評価されており、グローバル市場での成長余地が大きいです。また、製造技術、環境技術、医療技術などの分野では、日本の技術的な優位性を活かした海外展開が可能です。
まとめ：戦略的な業界選びで理想のキャリアを実現
2025年現在、技術革新と社会構造の変化により、成長する業界と衰退する業界の二極化が鮮明になっています。IT・デジタル、ヘルスケア、再生可能エネルギーなど7つの成長業界は、社会課題の解決、技術革新の活用、政策支援の3つの要素が揃っており、今後も伸びていくと予想されています。
一方で、従来型金融や紙媒体・出版などの業界では、デジタル変革への対応が急務となっています。ただし、積極的な事業転換を図る企業では新たな成長機会が生まれており、業界全体ではなく個別企業の取り組み状況を見極めることが重要です。
業界選びでは、市場成長率、社会課題解決への貢献度、テクノロジー活用可能性、政策整合性、グローバル競争力の5つの観点から総合評価することが必要です。短期的な待遇だけでなく、10年後のキャリアビジョンを明確にし、そのビジョンを実現できる業界と企業を戦略的に選択することが成功の鍵となります。
